はじめに
相変わらずブログの存在を忘れていた訳でご無沙汰しています...。
そういえば前に磁気式エンコーダについて記事を書く、といってどのくらいの月日が流れたかはよく分かりませんが、書いていきます。
今回の内容
マイクロマウス(旧ハーフ)では、既製品のエンコーダだとサイズが大きく扱いづらいために自作のエンコーダを使う方が多いと思います。その中でも、ネオジム磁石を使って専用のエンコーダICを用いて回転数を読み取るのは最もメジャーなやり方だと思います。
ここで問題となってくるのが、下手に作ると得られるデータが使いづらくなってしまうという点があります。機械精度やエンコーダICの性能といった話もあるのですが、この記事ではエンコーダICに必要な強度の磁場を与えるためにどうするかの設計について示します。
Entranceはこれに基づいて設計しています。これを考えたのはB1の夏ごろの話なので、おそらく高校物理が分かっていれば読める程度の内容だと思います(多分)。
※モバイル版だと数式がうまく出ないみたいなのでウェブ版のページで見ていただけるとよいと思います。
磁気式エンコーダの動作原理
磁気式エンコーダのICはどのようにして磁石の回転を読み取っているか、というとホール効果を利用しています。ホール効果とは何ぞや、という人は調べてください...だと投げやりすぎる気もするのでさらっと触れておくと、電流が流れているところに磁場をかけると電子の分布がローレンツ力によって偏り、起電力が生じる現象です。
磁気式エンコーダICの場合、下図の向きの磁場を検出する仕組みとなっており、磁石が回転すると磁場の強さは一定で分布の方向のみが回転するといった具合になります。このため、磁気式エンコーダで使われるネオジム磁石は径方向着磁といって、一般的な磁石とは違う方向で極が分かれているものを使用します。
磁気式エンコーダの仕組み概要
磁束密度の見積もり
では、エンコーダICにかかる磁束密度について見積もっていきましょう。
そうはいっても円柱のまま磁束密度を扱うのは難しいので、ここではN極、S極の重心の点にそれぞれ正と負の点磁極が1つずつあると仮定して計算します。この点磁極によってネオジム磁石のデータシートに記載されている表面磁束密度が生じていることから、エンコーダICのホールセンサ部にどれだけの磁束密度が生じているのかを見積もります。
磁石の半径を$r$、厚みを$h$、磁石からエンコーダICのセンサまでの距離を$d$とします。
まず、仮定した点磁極の位置を確認しておくと、図の$y$方向と$z$方向は対称性から中央にあり、$x$方向については半円の重心の位置になります。これを$a$とすると
$$a=\frac{4}{3\pi}r$$
になります。導出は普通に積分するか、計算が嫌ならパップス・ギュルダンの定理あたりを使うか、そんなことをしなくてもググるか、で分かります。
次に、磁石に記載されている表面磁束密度$B$について考えていきます。
ここで、この点での磁場の大きさ$H$を考えると、単位磁極が受ける力を磁気におけるクーロンの法則で見積もればよいので、比例定数$k_1$、仮定した磁極の磁気量$m$を用いて
$$H=k_1\frac{m}{(r-a)^2}-k_1\frac{m}{(r+a)^2}$$
になります。ここで
$$H=\frac{1}{\mu_0}B$$
であることから、新たに比例定数$k_2$を用いると
$$B=k_2 m\left(\frac{1}{(r-a)^2}-\frac{1}{(r+a)^2}\right)$$
となり、これがデータシートの表面磁束密度であると考えられます。
これをもとに、エンコーダにかかる磁束密度を見積もります。
正の点磁極による磁束密度$B_1$の大きさは、磁極からホールセンサの距離を考えると、先ほどの比例定数$k_2$を用いて
$$B_1=k_2 m\frac{1}{a^2+(\frac{1}{2}h+d)^2}$$
になります。したがって、その$x$成分を2倍することで$B_{sensor}$は
$$B_{sensor}=2B_1 cos\theta$$
となります。ちなみに、$cos\theta$は図より
$$cos\theta=\frac{a}{\sqrt{a^2+(\frac{1}{2}h+d)^2}}$$
となります。
比例定数と磁極の値は勝手に置いた値なのでわかりませんが、データシートの磁束密度と求めたい$B_{sensor}$を比較すると長さの二乗の比で計算すればよいことがわかり、結局
$$B_{sensor}=2B\frac{\frac{1}{(\frac{4}{3\pi})^2r^2+(\frac{1}{2}h+d)^2}}{\frac{1}{(1-\frac{4}{3\pi})^2r^2}-\frac{1}{(1+\frac{4}{3\pi})^2r^2}}\frac{\frac{4}{3\pi}r}{\sqrt{(\frac{4}{3\pi})^2r^2+(\frac{1}{2}h+d)^2}}$$
という風になると思います。これでネオジム磁石の諸量とエンコーダと磁石の距離から、ICに流れる磁束密度が求められるようになりました。
エンコーダICに必要な磁束密度とその考察
実際のエンコーダICに必要な磁束密度はデータシートに書いてあります。例えばEntranceで用いたAS5147P(データシートのリンクに飛びます)なんかだとPage8に書いてあります。また、ホールセンサの位置についてPage35にかいてあるので、それも考慮して設計した覚えがあります。
導出した数式から$r$を小さくしたり$d$を大きくしたりすると与える磁束密度が小さくなってしまい苦しくなってくることが分かります。実際に何でもいいので計算ソフトに式を入れてパラメータをいじれば雰囲気はつかめてくると思います。
ちなみにEntranceはφ4の磁石を使っており、これがちょうどよいくらいだったと思います。
終わりに
いかがでしたでしょうか。あまりこの手の磁気式エンコーダの設計の話は耳にしたことがないですが、こんな感じで見積もるとどの程度攻めた設計をしてよいかの見当がつくのではないかと思います。(もしもなにか間違いあったらすみません)
余談
Q. そんなことよりLightningとかでやってる光学式エンコーダの話が聞きたいです。
A. やめといたほうが良いです。
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